本文へ

ここから本文です

CMS Watch : ローカルに購買しよう 〜オーストラリア人のように

2005年2月25日 掲載

ジェームズ・ロバートソン(Step Two Designsマネージング・ディレクター)

メディアで伝えられている内容からして、現在のウェブCMSのマーケットは一握りの国際ベンダーが掌握していると思ったとしても、それは責められることではない。しかし、現実は正反対だ。世界のあちこちで地域レベルのCMSベンダーが強い立場を築いていて、圧倒的なベンダーがいたとしても、その数は非常に少ない。オーストラリアやヨーロッパ、そして米国でさえ、確固としたローカル・マーケットがあり、その国や地域の境界線を出てしまえばほとんど名前が知られていない数多くの製品が幅を利かせている。

このコラムでは、特にオーストラリアのマーケットを眺めていきたい。オーストラリアは、私のコンサルティング会社がある場所だからだ。しかし、ここで導かれる結論は、世界の他の地域にも当てはまると思う。

オーストラリアのCMSマーケットの様相

オーストラリアのマーケットは、「第2世代」CMSの到来で開花した。第2世代CMSは、強力だが複雑なことで知られる第1世代のウェブCMS製品から教訓を得ている。CMSの黎明期にマーケットをリードした製品(現在では「第1階層」ソリューションと位置づけられている)は、主に米国から登場したが、その向こうを張るかたちで、小規模なベンダーが世界各地で急激に増えた。

ここ2、3年は、ヨーロッパやオーストラリアなど数多くの地域で、強力な地元のCMSマーケットが出現している。例えば、このコラムの執筆現在、オーストラリアには全部で76の地域レベル・ベンダーがいる。これに対して、世界規模で販売されている約1000の製品のうち、オーストラリアの現地法人や再販業者などを通じてこの地域で手に入るものは、たったの20しかない(オーストラリアで販売されている全製品の一覧を参照していただきたい)。

マーケットのトレンドを見るかぎり、地元製品対国際製品の比率は、今後も変わりそうにない。それどころか、地元製品が好調に成長し、世界的に販売されている(多くはより高価な)製品の市場を食うかたちで着実にシェアを伸ばしていることが、あらゆる指標から読み取れる。

こうした成功には、多くの理由がある。例えば、非常に魅力的な価格設定、競争力のある機能、地元でサポートが受けられるメリットなどだ。以下、これらの要因をひとつずつ見ていきたい。

価格競争力

長引く豪ドル安は、地元のCMS業界に恩恵をもたらした。国際ベンダーが価格競争力を維持するのに苦戦したためだ。トップレベルの国際製品は一般に、基本的なソリューションで豪ドルにして10万ドルから(7万米ドル)となっており、最低ラインから先は極端に価格が高くなる。CMS購入を考えている多くの企業の予算をはるかに超える額だ。

これに対して、競争が激しく、常に価格圧力がかかっているオーストラリアでは、国産の中堅レベルの製品が2〜8万豪ドルという値段である。単純なウェブサイトならば、2万豪ドル以下の製品も増えつつある。

この状況は、他の大陸でもあまり変わらない。もちろん、価格低下は、最終的には中堅レベルのベンダーにもネガティブなインパクトをもたらす可能性がある。より低価格の製品を提供するベンダーが登場して、前からいたベンダーを追い抜いていくからだ。

ここで示した価格は、ソフトウェア価格のみということに注意してほしい。プロジェクトのコスト総額には、実装やカスタマイゼーション、サポートなどが含まれ、製品購入価格の2、3倍になるというのが一般的な考え方だ。

負けず劣らず、あるいは優勢

オーストラリアの製品は単に安いだけでなく、多くの場合、世界的に販売されている製品に引けを取らない。CMSを早々に取り入れた「新しいもの好き」の経験から教訓を得た地元のベンダーは、パワフルで使いやすい製品を、ゼロから開発したからだ。

地元製品のほとんどは、サイトを管理するエレガントでフレキシブルなメカニズムを持っている。なかには、コンテンツマネジメントの技術革新をリードしているような存在のものもある。例えば、ウェブ・コンテンツとその他のビジネス情報との境目をぼかすような、面白いアプローチを採用しているシステムなどだ。さらに良いことに、これらのシステムのほとんどは、初期の製品に比べてずっと「パッケージのまま」使えるスタイルを持っている。つまり、一般的な要件を抱える企業ならば、ものの数日か数週間で、ソリューションを実装して稼動させられると考えていいだろう。広範にわたる「統合」を経なければ最初の1ページすらパブリッシュできなかった時代は終わったのだ。

オーストラリアは、オープンソース・コミュニティでも重要な役割を果たしていて、商用インテグレータが提供するオープンソースのCMSソリューションも3つある(元々Miroが開発した「Mambo」、Squiz.netの「MySource Matrix」、Daemonの「Farcry」)。予想にたがわず、これらのソリューションは、比較的規模の小さい企業や公共セクターできわめて好調に市場を拡大しはじめている。

ローカルな拠点とサポート

地元製品を買うにあたって、おそらく最も強力なポイントとなるのが、ローカルなサポートだろう。助けが必要な時(どこかの時点で必ず必要になるものだ)、ベンダーが同じ町にいて、システムのコードを書いた開発者本人と直接話せるかもしれないのだ。

それとはまったく対照的に、国際商品では、現地オフィスに頼ることになるが、これらの拠点では営業担当のスタッフしか抱えていないことも多い。このようなベンダーは通常、初期導入の「実働」部分とある程度のカスタマーサービスを地元の実装パートナーに任せていて、それ以上のテクニカルサポートとなると、米国やヨーロッパの本社が提供することが多い。

個人的な経験から言うならば、小規模な地元ベンダーは、顧客のニーズに応えようとする姿勢も強い。多くの場合は、顧客のCMSプロジェクトをあらゆる側面から(研修やコンテンツ移行、サイトデザインといった非テクニカルな側面まで含んで)手伝わなければいけない状況に否応なく直面した結果として、顧客企業がCMSを導入する際に立ち向かわなければならない現実の問題点を、より良く理解するようになっているのだ。

多様な製品

CMSのマーケットには、唯一これが「ベスト」と言えるような製品は存在しない。オーストラリアで手に入る製品の多様さ見れば分かることだが、これは世界全体の状況にもおおむね当てはまる。一見すると、これらの製品は、みんな同じ基本機能を持っているように見える。WYSIWYGのオーサリング、テンプレート・ベースのパブリッシング、ワークフロー、セキュリティなどだ。大きな違いがあるのは、こうした機能をどのように提供しているかという点になってくる。

私の見積もりでは、市販されている製品の機能は、3割方、似たような機能で、残りの7割に大きな違いがある。こうした違いは、ベンダー独自のビジョンや方向性のほか、最初に手がけたプロジェクトや最大顧客の傾向などによって生まれている。そしてこの結果、それぞれの製品に強い分野と弱い分野が作り出される。

こうして、それぞれの製品が、独特な機能のセットと長所、短所を持つことになる。しかし、これはメリットにもなり得る。CMSを買おうとする企業は、それぞれに独自の要件を持っているためだ。マーケットに多数の製品が存在するということは、バイヤー企業の特別なニーズにかなりうまくフィットする製品が、必ずどこかにあることを意味する。また、ある会社ではパッケージのまま使えるCMSが別の会社では使えない、ということも起こり得る。

つまり問題は、コンテンツマネジメントに求める要件が何かを正確に把握したうえで、各製品がそのニーズをどこまで満たしてくれるのかを、確実に評価することとなってくる(複数のCMS同士を直接比較検討することではない)。マーケットが刻々と変化するなかでこれを実践するのは難しいかもしれないが、実践すれば、カスタマイゼーションの量を最小限に抑え、ビジネスへの利益を最大限に高められるという恩恵が待っている。

国際的な企業合併と世界への輸出

オーストラリア製品が世界でも競争力を持っているということは、明らかな証拠で示されている。大手国際ベンダーに買収される数が増えているという事実だ。その一番手は、Lotus NotesベースのCMS市場を長年にわたってリードしてきたAptrixだった。AptrixはIBMに買収され、現在ではIBMのNotesラインに統合されている。

過去2、3カ月の間にも、TOWER Technology(ドキュメントおよびレコード・マネジメントを手がけた企業)がCMS業界の「ビッグ5」のひとつ、Vignetteに買収された。向こう1、2年の間に、ほかにもオーストラリアのベンダーが買収される確率はかなり高いだろう。この現象は、地域レベルでトップの座を占める有力ベンダーが1レベル上の階層に上がっていく可能性があることも示している(本稿の執筆時点で、カナダのOpen Textは、ドイツとスイスを拠点とするIXOS/Obtreeを買収し、統合プロセスを進めている)。

一方で、オーストラリアのベンダーは、製品を世界に送り出すのにも忙しい。なかには、ロンドンや大陸ヨーロッパ、米国に拠点を開設したベンダーもある。海外の販売業者と再販契約を結んだベンダーとなると、さらに数が多い。

巨大な世界マーケットへと向かうこれらの飛躍は、大きなリスクを伴う。結局のところ、オーストラリアのベンダーも、第1階層の世界的ベンダーと同じように、現地サポートの欠如に悩まされる可能性があるからだ。それでもなお、少なくとも2、3のベンダーは世界進出によって大きな利益を得るだろう。ヨーロッパや北米の地域ベンダーのなかにも、同じように世界の舞台に進出しようとしている企業がある。

将来に向かって

CMSのマーケットは、世界各地でまだ流動性が高く、オーストラリアも例外ではない。群集から一歩抜きん出るために、各ベンダーは製品の革新を続けており、どこも市場シェアを高めようと狙っている。しかし、短・中期的には市場全体が大きく成長することから、地域レベルのCMSベンダーに大きな追い風となるだろう。当社の経験では、すでにCMSを導入した企業は、全体の約20%程度でしかない。

このことから、当面はほとんどのベンダーが、順調に売り上げを上げ、成長を続ける。しかし、いずれは製品機能が安定化し、標準化されていくことも、容易に予測できる。このマーケットが「生活必需品化」していくにつれて、ベンダーや製品の統合が始まるだろう。もちろん、これは前々から予想されていることではある。とはいえ、毎月新しい製品が各地でリリースされている状況のなか、来るべき業界再編が実際にいつ起きるのか、はっきりと言い当てられる人はいない。

その間にも、地域ベンダーはますます力を付けるだろう。だから、コンテンツマネジメント・ソリューションを探しているオーストラリアの企業は、地元のベンダーが提供する多数の優れた製品をじっくり検討することだ。それ以外の場所にある企業も、やはり地元の製品を検討してほしい。ローカルに購入することによって、より良い製品をより低価格で手に入れ、しかも強力なサポートを受けられる可能性があるからだ。

ジェームズ・ロバートソンは、ベンダーに依存しないコンテンツマネジメントとイントラネットのコンサルティングを提供するオーストラリアの会社、Step Two designsのマネージング・ディレクターを務めている。著書に『コンテンツマネジメント要件のツールキット(Content Management Requirement Toolkit)』。CMSに関する執筆記事、講演も多数ある。

この記事の原文「Regional WCM Vendors - Buy Local...Australians Do」は、2004年10月2日、「cmswatch.com」に掲載された。

本サイトに掲載しているCMS Watchの記事は、CMSWatch.comより許可を得て、翻訳・転載しているものです。

CMSWatch.comは、ウェブ・コンテンツマネジメントおよびエンタープライズ・コンテンツマネジメント・ソリューションについて、ベンダーから完全に経済的独立をした形で、利用者の立場に立って、独自の情報やトレンド、意見、評価を提供しているサイトです。

CMS Watchはまた、最新のCMS関連の製品分析やアドバイスが掲載されているThe CMS Reportの販売(無料サンプルあり)もしています。
The CMS Reportについて


トラックバック

このページのトラックバックURL
http://www.designit.jp/mt/mt-tb.cgi/108