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CMS Watch : エンタープライズ・コンテンツマネジメント /ECM の市場を読み解く

2006年4月 1日 掲載

アラン・ペルツ=シャープ

アナリストやコンサルタントというのは、ECM (エンタープライズコンテンツマネジメント)業界で統合再編が起こっていて、インフラベンダーの規模が大きくなりつつあるというトレンドを指摘するのが好きだ。確かに、これらのコメンテーターが言うことは、間違いではない。しかし、完全に正しいというわけでもない。このため、コンテンツマネジメントを買う側は、彼らのアドバイスを割り引いて聞いておき、最適なソリューションを求めて市場をくまなく見わたす努力は続けるべきだろう。

世間の通念:大手ベンダーに軍配

業界再編の話題は、一種の流行だ。とりわけ、FileNet と Open Text の未来については、近くどこかに買収されるのかどうかについて、かなりの憶測が飛び交っている。マーケットウォッチャーの観点からすると、この種の再編は、一般に良いことだと考えられている。特に、Microsoft と Oracle という主要データベースベンダーが市場に入って、業界全体を揺るがしはじめたとなれば、なおさらだ。

実際、この分野を観測している業界アナリストや金融アナリストと話してみれば、ECM 市場が動いていることについては、ほとんど全員の意見が一致していることに気づくだろう。彼らの話をまとめるならば、次のようになる。

メガ級のインフラベンダーたち(IBM、Microsoft、Oracle)は、この市場への参入をさらに進め、構造化データを現在管理しているのと同じように、ゆくゆくは非構造化データも管理することを目指すだろう。
これが実現する時期についてはいろいろな意見があるが、これらの企業がその野望の追求で失敗すると心から信じている人は、ほとんどいない。大企業はすでに、こうしたコンテンツインフラの方向性を検討しているし、中小企業の多くは、Microsoft SharePoint の導入が目覚ましい勢いで広まっていることもあって、この方向に向けた歩みをすでにかなり進めている。

マーケットウォッチャーとアドバイザーにとって、これは興味深い時代となる。しかし、ECM 技術の買い手にしてみれば、このような分析は不安をかきたてるだけでなく、場合によっては誤解を招くもとにもなる。ECM 関連技術を購入し導入するという本当の意味において、現実は、一見するよりもずっと変化が少ないし、乱気流もそれほど流れていないのだ。

ECM 製品スイートは健在

例えば、様々な ECM ベンダーがいるなかで、常に誰にも推薦したくないベンダーというのがいるのを別とすれば、現時点での大手(Gartner Magic Quadrant の右上に名を連ねている企業)はすべて、今から5年後も健在だろう。時代はもはや、ドットコム・バブルの時代ではなく、今生き残っている企業はどこも、資金力があるか、より規模の大きいその他の技術ベンダーにとって、その顧客ベースと技術を飲み込むという観点から格好の買収標的になっているかのどちらかだ。

仮に例えば、FileNet か Open Text のどちらかが買収されるとしても、顧客にとって悪い話ではない。資金力が付くことによって、サポートが改善し、技術も向上するかもしれないからだ。このようなシナリオは、EMC に入った Documentum、Interwoven の傘下に下った iManage の両社について、今日までのところ当てはまっている。

それゆえに、ECM 市場は動きが激しく、もしかするとボラティリティが高いように見えるかもしれないものの、現在のスタンドアローン ECM ベンダーは、実際にはどれも良い選択肢だということになる。これらの企業はすべて、強みとする分野に徐々にポジショニングを寄せていき、その製品は、特化したビジネスアプリケーションのアプローチを示すものとなっていくだろう。細かい部分で何がどこに収まっていくかは、時を経なければ分からないが、すでに分かっていることもいくつかある。

さらに、これらのベンダーが、長所を伸ばしつづけて特別の存在となる可能性も、十分にある。

もっと言うならば、次の2点は頭に置いておく必要があるだろう。

  1. テクノロジー市場というのは、常に、ベンダーや業界アナリストが予測または期待するのよりも、ずっと遅い速度で動く。

    ということは、Oracle や IBM、Microsoft が、着実にエキサイティングな歩みを進めているとしても、これらの企業が非構造化データインフラを純粋に我が物にするまでには、まだ長い時間がかかるということだ(私の予測では7〜8年)。その時が来るまで、そしてこれらの企業が、時間をかけて製品を洗練させ、多数のパートナーチャネルの啓蒙教育を済ませるまでの間は、スタンドアローン ECM ベンダーが、依然として多くのケースでベストの購入オプションでありつづける。少なくとも、大企業にはそれが言えるだろう。そして、このことは、次の第2点目にも関係していく……。
  2. 事実上すべてのアナリストやマーケットウォッチャーが(私自身も含めて)、ほぼ完全に大企業だけに目を向けている。

中小企業向けの一芸ベンダー

実際のところ、たいていのアナリストは、中小企業について、(たとえやっているとしても)ほとんど調査をしていない。詳細に調査された唯一の市場は、現在のトップ企業の市場だ。言い換えるなら、エスタブリッシュメントとなっている ECM ベンダー、シリコンバレーの基準で見てベテランと言えるベンダー、複雑で広範な技術を持ったベンダー、そして、とりわけ大企業向けに設計された製品のベンダー、ということになる。

このため、これを読んでいるみなさんの会社も大企業なのであれば、新しいソフトを購入するにあたっては、ECM スイートのベンダーをすべて検討すべきだ。なぜなら、これらの企業とその技術は、どんな看板を掲げることになるにせよ、近い将来はまだ健在だからだ。

一方、もしもみなさんの会社があまり大きくないのであれば、たいていは裏を返してみるのが正しい。つまり、ここで言及した ECM ベンダーは、中小企業にはまったく目を向けていないため、将来の統合再編に際しても、中小企業の顧客ベースが買収側企業の優先順位の上のほうに来ることはない。とはいえ、これまでほとんど調査されてこなかった中小企業に着目した別の市場というのがあり、これこそが、注意して見ておくべき市場となる。この市場は主に、一芸に秀でたベンダーで占められていて、しかもその数は多い。

確かに、ECM 技術というのは、簡単に外して取り替えが利く、というような技術ではない。ある環境から別の環境に移行するのは複雑なプロセスで、困難も、高い切り替えコストもはらんでいる。ECM 技術に投資する際は、長期的な視野に立たなければならない。ECM ベンダーすべて、そして大手のデータベースベンダーも、検討対象のリストに盛り込むべきだろう。特に、大企業にはそれが言える。現在の市場のボラティリティが、ここしばらくの間にみなさんの会社やその購買決定に影響を及ぼすとは、考えにくいからだ。

ただし、みなさんの会社が中小企業なのであれば、自社のニーズがどこにあり、導入しようとしている ECM の独自のアプローチに対してどこまでコミットするかを、かなり慎重に考える必要があるだろう。大企業であれば、情報管理をマネージし体系化するというニーズが、ベンダーやSIなどにとっては大きな契約を意味する。しかし、規模の小さい企業の場合は、同じニーズが、単に複雑で、労を費やすのも惜しいほどの見返りにしか見えないことから、中小企業専門ベンダーの領域として残される。そしてこの点において、差し迫った問題を簡単なアプローチで解決できる、一芸に秀でた小規模なベンダーはたくさんあり(多数のオープンソースのオプションもある)、それゆえに、これらのベンダーのほうが良い選択肢である可能性も高い。

まとめのアドバイス

結論として言えるのは、進化する ECM 市場を観察するのは、私のような人間にとってはとても興味深いことであるものの、購入の意思決定をするうえでは、誰もが思うほど重要ではない、ということだ。率直に言うならば、みなさんの会社が大企業なのであれば、市場は十分についていけるほどのスローなペースで動いていて、本当の意味でエンタープライズレベルの ECM ソリューションを提供している企業はどこも、ここ数年のうちに製品が消えてなくなってしまうということはないだろう。

みなさんの会社が中小企業なのであれば、メジャーなアナリストなどから聞こえてくる市場の動きは、ほとんどが ECM スイートベンダーに着目していて、みなさんの会社に対して値ごろ感のある製品を提供する計画はそもそもない企業だということを、知っておく必要がある。

このため、中小企業は多くの場合、Gartner のリストの「右上」からは意識的に目をそむけ、その代わりに、あなたの市場、ひいてはあなたの会社に正しい製品を提供しようと熱心に努力してくれる一芸ベンダーに目を向けたほうが、良いサービスにありつける。

アラン・ペルツ=シャープは、製品戦略およびアーキテクチャ・コンサルティングを手がける Wipro の主任ストラテジストとして働いている。前職では、業界分析を手がける Ovum の北米担当バイスプレジデントを務めたこともあり、ドキュメントマネジメント、ウェブコンテンツマネジメントの世界では17年のキャリアを重ねてきた。ドキュメントマネジメント、ウェブマネジメント、記録管理といったトピックで、数多くの記事や論文を執筆し、世界各地のイベントで講演した経験も持っている。

この記事の原文「Making sense of the ECM market」は、2006年1月5日、「cmswatch.com」に掲載された。

本サイトに掲載している CMS Watch の記事は、CMSWatch.com より許可を得て、翻訳・転載しているものです。

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