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ダン・サファー パーソナルサイト 「O Danny Boy」:デザインスクール関係者の皆様へ:どうぞ、もう一度デザインを教え直してください

2008年7月 4日 掲載

Dan Saffer
Adaptive Path のインタラクションデザイナー、インタラクションデザイン修士、インタラクションデザイン協会(IxDA: Interaction Design Association)理事

デザインスクール関係者の皆様へ:どうぞ、もう一度デザインを教え直してください

原文: Adaptive Path Blog [adaptivepath.com]
投稿日: 2007年03月06日

今年も、デザインスクールの学生から送られた履歴書の山をかき分けてAdaptive Path の夏期インターンや採用者候補を探すため時期がやってきた。これをやっていくにつれて、僕が懸念していた傾向が明らかになってきた。その傾向とは、もはや「デザイン」を教えるデザインスクールは極めてまれになってきているということだ。その代わりに、学校では「デザイン思考」について教育をし、それで十分と考えているようなのだ。

率直に言って、そんなことではいけない。

僕自身は、デザイン思考、デザイン形成理論、デザイン実践という3つの構成要素を使って教えられた(実践とは、デザインの合成、プレゼンテーション、評価などから成り立つもので、思考と形成理論の架け橋になるものだ)。もしもすべてのデザインスクールがデザイン思考だけを教えるのであれば、そう、他の 2/3 の部分が欠如することになる。学生たちは、流行を追い求めて勝手気ままな技法を身に付けてきている。アクセンチュアのような大手のコンサルティングファームで仕事をしたいのでない限り、形成理論や実践を欠いたデザイン思考だけを持つ人間が雇用市場で必要とされることはほとんどないだろう。恐らく、スタジオのような仕事環境の中でもデザイナーとして職を得ることはないだろう。そんなことなら、人文科学系の学位をとったほうが、最低でもつぶしが効くので無難だろう。

デザインスクールは、学生たちに「デザイン思考」のみを教えることで、甚大な悪影響を与えている。タイポグラフィーや描画の技術に関する授業では、価値あるスキルを与えるだけでなく、デザイン思考「に加え」、形成理論と実践を一度にまとめて教えることができるというのに、残念なことだ。デザインというものが職業としてだけでなく、学問の一分野としても本当に有効なものであるためには、デザイナーがデザイン戦略やコンセプトを提案する際に、まさに「デザイン思考」を用いることができなければならないのに、それができない。極端なことを言えば、デザイン思考だけを行うほうが製品を作り上げるよりも、「ものすごく」簡単なことだといえるのかもしれない。ホワイトボード上のコメント、美しいコンセプトムービーや絵コンテなどが、プロトタイピング、開発、製造などと比べて重要だとはいえない。アイデアを思い浮かべるよりも、そのアイデアを実行に移すほうが何倍も難しいのだ。そう、天才とは「99%の努力と1%の才能」からなるのである。

デザインの形成理論抜きでは、そもそもその人をデザイナー足らしめるような、細部に渡る仕事もこなせない(これはデザイナーが対価として得る給料のほんの一部だが)。また、デザイナーの細かな配慮が行き届いた仕事は、デザイナーが作ったプロトタイプをよりリアルなものにする開発者、ビジネスマン、製造者たちから敬意を表される部分でもある。細部は制約事項を実践に移していく場であるため、得てして単にプロジェクトを「思考」する中では見落とされがちなのである。形成理論の中でとらえることに比べると、制約は、思考の中では確かなものになりにくいのである。

最終的に僕たちが行き着くのは、企業家のようにビジネスを創造して経営することもできず、デザイナーのように製品やサービスをデザインすることもできないような人々、いわばMFA(Master of Fine Art:美術学修士)の衣を着たMBA(Master of Business Administration:経営学修士)というイノベーター世代になるだろう。これは両方の業界にとって最悪の事態だ。職業人として求められのは、考えながら実行もできる人間だ。もっともらしいことだけを言うデザイナーではなく、細部にも注意を払いながら、根拠や賢明さに加えて感性と技術を持ってデザインを行える人、つまり、思いやりを持って意味あるデザインを作り出せる人が求められているということだ。世界中が、こういったデザイナーを必死に探している。デザイナーをもう一度育て始める必要があるのだ。

本サイトに掲載している 「O Danny Boy」の記事は、ダン・サファー氏 より許可を得て、翻訳・転載しているものです。

関連サイト

  • O Danny Boy [odannyboy.com] (パーソナルサイト)

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