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CMS Watch:Facebook革命 企業情報システムにおけるSNS活用の可能性

2008年10月 1日 掲載

DESIGN IT! magazine』vol.1のReview+Communication「Reports」を掲載しています。

Facebookの画面
Facebookの画面

「Facebook」 が社会人の間で劇的に広まったのを受けて、「エンタープライズ2.0」への問いかけが浮上している。

Facebookについては、多くの人はまだその準備ができていないか、現実に直面することができないといった段階だろう。企業ネットワークからFacebook.comにアクセスできないようにしている会社もあれば、イントラネットとしてFacebookを導入した会社もある。だが、ほとんどの企業では、この社会現象に対して十分な知識を持っていない。

とはいえ、この現状が長く続くことはなさそうだ。Facebookは単なるWebサイトではなく、もっと幅広い社会現象の副産物と言える。企業は、Facebookの背後にあるコンセプトを取り入れながらも、一方で、一般の社員から歓迎されないプラットフォームには飛びつかないようにする必要がある。

そもそも、これだけ話題になる理由はどこにあるのか。その主な要因は、イントラネットの一部または全部をFacebookに移行した企業にある。ソフトベンダのセレナソフトウェアに加え、ソニーや米国のテレビ局ABC。また、これ以外にもあることは間違いない。これらの企業は、次のような傾向を持っているようだ。

  • 社員の年齢層が比較的若い(回転が速いということもあるが)
  • 新しいコンテンツ技術を早くから導入する
  • 一般に、レガシーシステムへのアクセスよりも、効果的なリアルタイムのコラボレーションやネットワーキングを重視する
  • 社内ITへあまり投資してこなかった可能性がある

だが一方で、IT企業やメディア企業は「先駆け」とも言えることから、この現象は注意して観察する必要がある。


ポータルの側面からFacebookを見てみよう

ソフトベンダは明らかに関心を持っているが、Facebookがパブリックサイトであることから、ほとんどの企業は慎重な姿勢をとっているのが現状だ。

では、伝統的なソフトベンダからの代用として、Facebookをインハウスに持ち込むことは可能なのだろうか。もちろん、それを狙ってグーグルを筆頭に各ベンダが“エンタープライズ向けFacebook”を構築しようとしている。マイクロソフトやBEA、IBM、そのほか多数の小規模ベンダが、同じ野望を持っている。

CMS Watchでは、内部および外部パートナーとのコラボレーション・プラットフォームとして、Facebookをテストしてきた。結果は、これまでのところ良好だ。

だが、ポータルとしてのFacebookには、いくつかの明らかな限界がある。まず、Facebookには様々なアプリケーションがあるが、その動作に一貫性がなく、セキュリティのレベルもまちまちだ。このことは、サードパーティのポートレットやWebパーツで苦労しているポータル開発者にとっては、おなじみの問題だろう。

また、Facebookのアプリケーションは、グループよりもむしろ個人を中心にして開発されているように見受けられる。このため、プロフェッショナルなコラボレーションでは不便を来たす可能性がある(一般にマイクロ・アプリケーションは、ワークスペースを選んで適用される) 。そして、Facebookには、本当の意味でのドキュメント管理がない。ただし、そもそもドキュメント管理をFacebookに置きたくないと思う企業が多いだろうし、アルフレスコやその他のベンダが自社のリポジトリからFacebookへの接続機能を開発しているので、それほど大きな問題にはならないかもしれない。


つかみどころのないエンタープライズ2.0の追求

いずれにしても、「エンタープライズ2.0」と呼ばれるものすべてに共通することだが、根源的な問題は文化の側面にある。確かに、Facebookには魅力がたくさんある。ヒップ(流行) であり、公私の垣根がファジーになっている、今時の状況を捉えている。アプリケーション構築を簡略化することもできる。

そして、筆者自身がもっと重要だと思うのは、Facebookによって個人がいくつもの異質なネットワークに参加できるようになり、そのネットワークでは、参加者自身が相手との親密度などの変数を設定できるという点だ。これは、標準的なエンタープライズのイントラネットポータルでは一般に不可能だろう。

では、ファイアウォールの後ろのFacebookが、Facebookでなくなる境目というのは、どこにあるのだろうか。それは、中央管理の権限が背後に入ってきた瞬間からではないかと、筆者は考える。そして、その管理機能が、「よく知っているから」とか「タダだから」という理由で、既存のMOBIG( マイクロソフト、オラクル、BEA、IBM、グーグル) ソフトの使用を本能的に義務付ける時、一般社員にとっての魅力は失われるだろう。

Facebookを安全で閉ざされた環境の中に作りたいというのであれば、社員に任せて作らせ、自由に形成させる必要がある。純粋な草の根の普及を図りたいのであれば、社員がオーナーとならなければならない。破壊的な「フィール」(印象) を持ち、少なくとも「クール」に見えなければならないだろう。そして、ほとんどの場合、「クール」というのは作られるものではなく、自然発生するものだ。


社員の創造性と企業の統制とのバランス

こうしたことに対して、以下は逆説的に聞こえるかもしれない。エンタープライズ情報管理の半分が、個人のイネーブルメント(許容範囲)にあるとしたら、残りの半分は、会社側のニーズを尊重することにあるからだ。

その会社のニーズとは、適切な情報保存や記録管理、検索力、効率的なストレージなどにある。もちろん企業統制の側面は、エンロン事件やサーベンス・オクスリー法の流れを受けて過度に強調されてきた。

だが一方で、ナレッジワーカー( やその他の) 社員に対して、創造性と適応性を期待するのであれば、彼らがコラボレーションを達成するためにFacebookや他のプラットフォームに「逃げた」としても、企業は驚くべきではない。

過去、我々は、マイクロソフトの「Microsoft Office SharePoint Server」(MOSS) を草の根的だとして批判してきた。それは、IT部門の責任放棄が見られたからだ。「経営側がファイル共有を求めてくるのなら、どこへでも自分たちでMOSSをインストールすればいい」といった姿勢があった。MOSSを使ってFacebookのような体験が作れると仮定するとしても(筆者自身はそうは思わないが) 、MOSSの問題は、複数のインスタンスを管理するネイティブの方法がないという点にある。

それでは、IT 部門はどう対処していけば良いのか。筆者が提案するのは、コラボレーションの代替セットを提供する(あるいは単に許可する) ことだ。それ以外は一歩引いて、できるだけ邪魔にならないようにライフサイクル管理を維持し、どれが普及していくか、様子を見ればいい。

これは、いくつものコラボレーション・ソリューションを、ホスト型ソリューションも含めて許可し、内部で競い合わせることを意味するかもしれない。そして願わくば、ベストのソリューションが勝つことを祈ろう。

ただし、これは決して楽な方法ではない。事実、流行のコラボレーション・パッケージに適切な維持機能やセキュリティ・サービスを追加するのは、手間のかかる作業かもしれない。これらのパッケージは、エンタープライズレベルの導入を明らかに謳っているわけではないにもかかわらず、会社内で人気を集めるようになったパッケージだからだ。

ガバナンスの専門家( コンサルタントとして受賞歴もある) のグラハム・オークス氏は「IT 部門がもっと介入すべき」と訴えている。これは、正しいソリューションを探すプロセスをIT 部門が積極的にリードし、コアのエンタープライズ情報と企業ネットワークの端っこ、または外に置いても良い情報の境界線を どこに定めるか、という議論をIT 部門が仲裁すべきだということだ。


Facebook.comとFacebookとの境界線

では、Facebook.comがFacebookではなくなる境目はどこにあるのか。

筆者自身、様々なカンファレンスに出席するたびに、専門家が企業の担当者に対し、Facebookを活用して数百万という潜在顧客を取り込む努力をすべきだと説くのを耳にしてきた。確かに聞こえは良い。

だが、Facebookの利用者は、企業の宣伝を聞きたくないから、ここに集まってきているのだ。Facebookに参加しているのは、従来型のマーケティングを逃れて、より個人的なコントロールが利く環境へと流れ込んできた人たちだ。企業がFacebook 上でアグレッシブに広告宣伝を始めれば、あっとい う間に大多数が去っていく。そして、リンクドインをはじめ、数ある社会人向けネットワーキング・サイトの1つになるだけだ。それはそれで価値があるが、企業ネットワークと混同する人はいなくなるだろう。

公正を期すために言っておくと、Facebookのマーケティングを真剣に考えている企業のほとんどは、洗練されたアプローチを使い、マーケティングではないように装って、このプラットフォームの特長であるパーソナルな人のつながりを生かそうとしてくるだろう。だが間違いなく、個人のネットワークを企業の利益に使う試みだ。筆者は懐疑的に見ているが、どうなるかは誰にも分からない。

では結局、IT部門がすべきことはなんだろうか?

まずは今が、ソーシャルコンピューティングやコラボレーションの黎明期であることを認識しよう。しかも、現代はすぐに状況が変化する時代だ。Facebookは、急成長したのと同じぐらいの速度で急降下し、別のネットワークに取って代わられる可能性もある。

そこで何をすべきかというと、「社員の仕事のお手伝いをさせてください」という姿勢を制度化して確立することだ。特に、「社員が望む働き方(会社がそうだろうと思う働き方ではなく)をサポートするには、IT 部門はどうすればいいですか」という姿勢が必要だ。

社員が主導するITの意思決定と、裏方で必要とされる基本的な情報管理の間でバランスを取りながら進められる企業は、真の「エンタープライズ・Facebook」を創造するという点で最大の成功を収められるだろう。


創刊によせて

「DESIGN IT! magazine」 創刊号に参加させていただけたことを、光栄に思います。伝統的なスタイルである雑誌というメディアで、新しい領域であるソーシャル・ソフトウェアのことを取り上げるのは、決して皮肉な組み合わせではありません。理由は技術のあらゆる側面において、印刷媒体が果たせる役割があるからです。

本誌によって、コンテンツ技術やコラボレーション技術が日本国内で普及することはもちろん、洋の東西を問わず知識の共有が促進されることを願っています。新技術の実験には「経験から学ぶ教訓」がつきものです。こういった教訓や知識の中には、日米の国境を越えて共通するものがたくさんあるはずだと信じています。

Tony Byrne photo
トニー・バーン
CMS Works代表取締役、CMS Watch主宰・編集者

著者略歴
ニュースレポーターや出版業、国際的なトレーナー職をはじめ、IT関連コンサルティング会社では技術グループとプロダクショングループの統括リーダーを経験。その後、CMS( コンテンツマネジメントシステム)業界のニュースや評価・分析レポートを提供するポータルサイト「CMS Watch [cmswatch.com] を主宰する。 また、コンテンツマネジメントのトレーニングやコンサルティングを提供するCMSワークスの代表取締役として、先進的なグローバル企業や公的機関に対して、適切なコンテンツテクノロジーの選択と導入のためのコンサルティングを展開する。『The CMS Report』の著者であり、『The Enterprise Search Report [cmswatch.com] の出版者。( ともにCMSWatch.com [cmswatch.com] で注文可能)

この記事の原文「 Is Facebook in the Enterprise an Oxymoron? [cmswatch.com]」は、2007年12月9日、「cmswatch.com」に掲載された。

本サイトに掲載している CMS Watch の記事は、CMSWatch.com より許可を得て、翻訳・転載しているものです。

CMSWatch.com は、ウェブ・コンテンツマネジメントおよびエンタープライズ・コンテンツマネジメント・ソリューションについて、ベンダーから完全に経済的独立をした形で、利用者の立場に立って、独自の情報やトレンド、意見、評価を提供しているサイトです。

CMS Watch はまた、最新の CMS 関連の製品分析やアドバイスが掲載されている The CMS Report の販売(無料サンプルあり)もしています。
The CMS Report について


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