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チャネル横断で顧客経験を最適デザイン

2009年11月30日 掲載

[keynote-3] UX(顧客経験価値)の向上を通じた顧客サービスの最適化

講演者 長 稔也(株式会社 日立製作所 金融システム営業統括本部 ソリューションビジネス推進部 部長)

日立製作所・金融システム営業統括本部ソリューションビジネス推進部長の長稔也氏は、元銀行マンであり、現在はITベンダで金融業界向けビジネスコンサルティングを手がける知見から、「UX(顧客経験価値)の向上を通じた顧客サービスの最適化」と題して講演した。経験ビジネスを成功させる4つの原則に基づき、主に米金融機関での先進的な取り組みを紹介するとともに、日立のUX向上ソリューションの一端にも触れた。

Right なチャネリングを模索する


長稔也氏の講演の様子

 UX時代に合わせて顧客マネジメントは CRM(Customer Relationship Management)から CEM(Customer Experience Management)に移行している現状を踏まえ、長氏は「チャネリングも Light(低コスト)から Right(適切)に転換する必要がある」と話す。無理にバーチャルチャネルへ誘導するのではなく、マルチチャネルで顧客の目的・意識に応じて適切なサービスを提供すべきというのだ。

 そこで重要なのが、顧客の動態や理解を高める仕掛けという。何も知らない顧客は「受動的」に情報を受けて“気づき”、そこから詳しく知りたいと「能動的」に情報を得て“理解”し、“納得”して購入に至る。このプロセスに合わせて各チャネルの役割、それも各チャネルとも、顧客行動に応じるリアクティブ(サービス)、促すプロアクティブ(セールス)の両面が必要と話す。

 そこで長氏は、UX関連の定番『経験経済』(パイン&ギルモア著)に即して、経験ビジネスを成功させる4つの要素、1.「フラッグシップとなる場をつくる」、2.「リアルとバーチャルの経験の統合」、3.「幅広い経験ポートフォリオの提供」、4.「経験をデザインするクリエティブなアイデア」で海外の先行事例を取り上げた。

ライブヘルプで現実と仮想を融合

 1の「フラッグシップとなる場をつくる」の成功例は、米オレゴン州に本拠を置く Umpqua Bankだ。自らを小売業と見なしてをUXを徹底重視。03年に開設したフラッグシップ店舗は、ホテルかブティックかと見まごう店舗デザインである。散歩の途中に立ち寄れるよう犬の水飲み場を設けるなど、退職した人が多く住む地域性に配慮し、地元アーティストを招いてのイベント開催などコミュニティ活動にも熱心という。国内を見渡しても、ここまで旗幟を鮮明にしている金融機関はないだろう。

 次に2の「リアルとバーチャルの経験の統合」では、店舗内に“コールセンター直結端末”を設ける英金融機関の例が紹介された。「電話のように煩わしい IVR(自動音声応答装置)操作がなく、メニュー画面からオペレータに直接つながるので利便性は高い」とする。

 また米国では、チャットや Web コールバックなど“ライブヘルプ”を取り入れる企業が増えているという。コストが高い訪問・電話応対と、コストは低いが顧客任せの Web・メールの隙間を埋める手段としてだ。長氏は「Eコマースでは6割の来訪者が、表示情報が過剰だったり、入力項目が多かったりで発注を断念。人のサポートを望む顧客は多い」とライブヘルプの有効性を指摘した。

 Web コールバックをうまく活用しているケースとしては、米 Harris Bank が紹介された。同行は Web の各ページにコールバック依頼画面に移る“Push to Talk” [harrisbank.com]ボタンをもうけ、どのページから要求されたかで、電話をかけるスタッフを分けている。逆に悪い例として取り上げられた国内のあるEコマース企業の場合、「携帯電話が使えず、時間指定の選択肢が少ない。最悪なのはコールバック自体が IVR」との指摘に場内からも苦笑が漏れていた。

問題解決型の Twitter を商用利用


長稔也氏の講演の様子

 続いて3の「幅広い経験ポートフォリオの提供」では、Blog/SNS の活用が提唱された他、いま最も注目を集める Twitter やAR(仮想現実)についての言及もあった。

 長氏によれば、Twitter には「問題解決型」「情報提供型」「コミュニケーション型」など7つの利用パターンがあるという。その中で、情報提供型の成功例としては、例えば米 Dell(米国顧客向け @DellOutlet [twitter.com])があるという。同社は09年6月、過去2年間で @DellOutlet 経由により新古品中心に300万ドルを売り上げたと公表した。

 また長氏は「金融機関のような業態の Twitter 利用なら問題解決型がふさわしい」と、米 Wells Fargo(@Ask_WellsFargo)のケースを紹介した。ユーザーから Ask_WellsFargo に投げかけられた質問を見て、Wells Fargo の担当者はそのユーザーをフォロー。例えば、他者からは見えない Direct Message を使い質問に合わせて適切な社内エキスパートの連絡先を知らせる。よく考えられた仕組みだ。

 iPhone アプリ「セカイカメラ」に代表されるARについて、長氏は“UXを向上させる新たなインタフェース”としながらも「書き込みがなければ始まらない。セカンドライフの二の舞にならなければよいが」と指摘した。

店舗設計の“ABCDEF”

 最後に4の「経験をデザインするクリエティブなアイデア」の例として、長氏は日立が手がける店舗設計手法を紹介した。それは Amenity(心地よい雰囲気づくり)、Branding、Customer Experience、Design、Ecology、Function(店舗を支えるIT機能)の“ABCDEF”から構成されるという。

 この ABCDEF を取り入れて日立が店舗設計を手がけた例としては、ジャスダック証券取引所「JASDAQ プラザ [jasdaq.co.jp]や鹿児島銀行「個人プラザ かぎん WELL」 [kagin.co.jp]などがある。前者はイベント会場、セミナー室を備える他、来場者が操作できる情報端末を装備する。後者は、既成概念を打ち破り土日・祝日も営業する個人向け商品の総合窓口であり、県産材使用や LED 照明で環境にも配慮する。

 日立といえば、“メーカー”のイメージが強いが、こうした“UX向上ソリューション”も積極的に提供している。実際、「社内では、システム・サービス開発においてもUX中心の“エクスペリエンス指向(Ex)アプローチ”の導入が始まっている」という。非常に興味深い話だ。

(編集部)