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“Azure+Silverlight”で未踏のクラウドアプリへ

2009年12月 1日 掲載

[keynote-2] クラウドコンピューティング時代に求められる UX の役割とマイクロソフトの最新テクノロジ

講演者 鈴木 章太郎(マイクロソフト株式会社 デベロッパー&プラットフォーム統括本部 アーキテクトエバンジェリスト)、春日井良隆氏(マイクロソフト株式会社 UXエバンジェリスト)

マイクロソフト・デベロッパー&プラットフォーム統括本部の鈴木章太郎氏(アーキテクトエバンジェリスト)による基調講演は「クラウドコンピューティング時代に求められるUXの役割とマイクロソフトの最新テクノロジ」と題して行われた。同社は10年よりクラウドサービス「Windows Azure」の商用提供を始めるが、「クラウド時代は逆にクライアント側の重要性が高まる」と、RIA プラットフォーム「Silverlight」の存在を強調する。

S+S を指向したクラウドサービス


鈴木章太郎氏の講演の様子

鈴木氏の基調講演は折しも、当日深夜に米マイクロソフトが開発者向けカンファレンス「PDC09」[microsoftpdc.com]でクラウドサービス「Windows Azure」の商用提供を発表した直後とあって、高い関心を集めた。

 鈴木氏は冒頭、「オンプレミスとクラウドとを適材適所で使うという考えがソフトウェア+サービス(S+S)。それは、マイクロソフトが昔から言っているユーザー中心コンピューティングの実現に他ならない」とした。その上で「クラウドの真の価値は、今までになかったアプリケーションを登場させること。例えば、数億件、TB級のデータを扱うアプリケーション」と Windows Azure で運用される情報流通サービス「Dallas」[pinpoint.com]を引き合いに出した。

 その Windows Azure は次のように構造になっているという。クラウドOSとストレージサービスからなる狭義の「Windows Azure」、RDBMS 機能を提供する「SQL Azure」、オンプレミス・クラウド間のデータ連携とアクセス制御を担う「Windows Azure AppFabric(旧 .NET Services)」、これら機能を包含するプラットフォームサービス「Windows Azure Platform」。背後では仮想化、負荷分散されたハードウェア群が控える。特に「S+S を指向した AppFabric は他社にはない」と自信を見せる。

 Windows Azure では、通常の ASP.NET Web アプリケーションや WCF サービスが動作する。つまり、開発者は Visual Studio など使い慣れた環境で開発できるわけだ。一方、より軽量な REST 型接続にも対応し、PHP などの開発言語にも門戸を開く。また、ストレージサービスでは、データを Key-Value 方式でフラットに格納する。「データを分散しやすく、データの属性項目も後から自在に増やせ、スケーラビリティを高められる」と、同様なサービスで先行する Amazon や Google を追う構えだ。

クラウド環境に即したクライアント要件

 ここで鈴木氏は「ネットワーク環境やスレージ構造にUXが制約されるクラウドは改善の余地が大きい」とし、クラウド環境に即したクライアント要件を挙げた。それは、データ駆動アプリケーションを柔軟・迅速に構築できること、Key-Value 方式に適した関数型言語、クライアント側のOS API、ハードウェア資源の活用など——逆に言えば、ここにもマイクロソフトが差別化できる要素があると考えているようだ。実現する技術は当然、RIA プラットフォーム「Silverlight」である。

 各種ブラウザ向けプラグインとして提供される Silverlight は、鈴木氏によれば、全世界で4億件のダウンロードがあり、関わるデザイナー&開発者は40万人以上という。09年7月に正式提供された「Silverlight 3」は、60以上のコントロール追加、SEO 対策などで開発生産性を高めた他、ブラウザ外のオフライン動作を実現し、H.264/ACC/MPEG-4など配信メディアの幅を増やしている。

 この Silverlight のリッチさと Windows Azure を組み合わせた、クラウドアプリケーションが紹介された。目を引いたのは、マイクロソフトが試験運営する写真共有サービス「DeepZoomPIX」[deepzoompix.com]だ。大きな画像データをスムーズに処理する Silverlight の DeepZoom 機能を使い、Windows Azure 上に格納した写真を従来にないUXで表示するものだ。同様に Silverlight の DeepZoom を活かしつつ、Internet Explorer 8の Web スライス、Azure のストレージと組み合わせて、ファッションショーの写真を自在に閲覧するサービス[windows.net]も紹介された。

RIA 開発を支援する豊富なツール群


デザイナーと開発者の協業を図るツール連携について
解説する春日井良隆氏氏

 さらに鈴木氏は、Silverlight 3 の目玉の1つ WCF RIA Services(旧「.NET RIA Services」)への対応に触れた。「これまで非常に大変だった多階層 RIA の開発を容易にするフレームワーク」という WCF RIA Services は、クライアント側とサーバー側でロジックを共有化、開発生産性を高めるとともにクライアント処理を厚くしてUXを向上させる。業務システムの RIA 化・クラウド化で威力を発揮しそうだ。実際、Silverlight 3/ WCF RIA Services と Windows Azure/SQL Azure を活用した業務アプリケーション画面が見られた。

 Silverlight の適用性の広さがうかがえたところで、マイクロソフトの春日井良隆氏(UXエバンジェリスト)が登壇し、デザイナーと開発者の協業を図るツール連携の説明とデモを実施した。ツール連携としては、デザイナー向けの「Expression シリーズ」、開発者向けの Visual Studio の間で共通のプロジェクトファイルが使える。マイクロソフトが XML を独自に拡張したUI記述言語「XAML」によりUI設計情報が共有化されるわけだ。

 春日井氏は「RIA ではイテレーション(反復型)開発が重要」として、Silverlight や WPF 向けUI設計ツール「Expression Blend 3」で新採用された SketchFlow 機能を活かしたプロトタイピングのデモを見せた。同氏が「デザイン性を意識することなく、ペーパープロトタイピング感覚でプロトタイピングに集中できる」という通り、画面遷移・インタラクションを簡単に作り込める上、関係者がコメントを書き込めたり、成果物をWord出力できるのは確かに便利そうだ。

 再び登壇した鈴木氏は「クラウド時代は逆にクライアント側の比重が高くなる。その様々な要件に対応した RIA プラットフォームの Silverlight と Windows Azure の組み合わせで、誰も到達したことがないクラウドアプリケーションを創り出して欲しい」と講演を締めくくった。クラウドにUXという観点が加わると、やはりマイクロソフトの存在感は大きい。そう感じさせる講演だった。

(編集部)