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文書管理からCMSへ:マネジメントのためのCMS入門(2):情報管理の難しさ

2005年2月15日 掲載

鎌田博樹
オブジェクトテクノロジー研究所

「必要な」情報をもとめて

 かつてよく目にした広告に「あらゆる情報を瞬時に……」というのがありました。コンピュータやデータベースというものに初めて接した当時の素朴な驚きに溢れていますが、人間にとって必要な情報は5W1Hに関連した個別具体的なもので、「あらゆる」情報は役に立ちません。過ぎたるはなお及ばざるが如し。使い切れないからです。情報を管理する目的は、「必要な」情報を扱い、「必要な」形に加工することにあります。

 そして困ったことに、必要性ほど移ろいやすいものはありません。当然、使う人にも依存します。売上の生データを見て、すぐに問題点を読み取る人もいれば、カラーのグラフが必要な人もいます。

 コンピュータは定型的な仕事には馬鹿力を発揮しますが、教えた通りにしか働かないので、何が「必要」かを、判定基準を含めて、いちいち人間が教えてやらなければなりません。これがソフトウェアの仕事ということになりますが、最終的な情報(あるいはシステム)のユーザーは、ふつうプログラムを書いたりすることはありませんから、ソフトウェアの専門家が、ユーザーのニーズを聞いてシステムを作ることになります。そうやって出来る、帯に短く襷に長いシステムを使うには、それなりの根気と技術が必要です。

 あらゆるITの中で、情報管理のためのシステムは一番奥の深いものだと、最近つくづく思います。それはコンピュータと人間の両方にまたがり、最終的に人間の多種多様なコミュニケーションに役立つかどうかで評価されるものだからです。そこでのシステムの難しさは、「必要」とは何かを発見し、再構成することにあります。ゴールは単純ですが、完全な答えはありません。ビジネスとしては、ROI(投資対効果)を考えながらシステムを使っていくことになるでしょう。それによってどの程度の利益、どの程度の損失防止に貢献できるのか、ということです。

日本型組織文化と情報管理

 電子的な情報管理の技術は、1970年代に生まれ、80年代には完全な原型が出来上がっていました。ウェブで世界中に広がったハイパーテキスト技術(注)も、変更管理など電子文書に特別な仕事をさせる技術も、実用レベルに達していたのです。今日のパソコンよりも貧弱な能力しか持たない汎用コンピュータやミニコンピュータ、ワークステーションで驚くほどのことをやってのけていました。私は80年代(「電子出版」時代)にこの市場と技術に注目し、データベース、電子メールとインテリジェントな電子文書処理技術が結びつけば、理想的な情報管理システムが構成できると考えて導入コンサルティングなどを試みたのですが、欧米とのビジネス環境の違いのあまりの大きさに、これを仕事とすることは断念しました。

 理由をひと言で言えば、組織文化の違いということですが、具体的には、次のような点にありました。

  1. 情報管理の主体が、欧米のようなトップダウンではなく、職場単位で分かれていた
  2. 情報・出版活動が外部サービスに任されており、情報管理と結びついていなかった
  3. 業務は必ずしも文書に基づかず、文書は必ずしも業務を反映していなかった
  4. 情報を現場が抱え込む傾向があり、組織的な情報管理には抵抗もあった

 情報の管理はコミュニケーションのために行うわけですが、伝統的な日本型組織のコミュニケーションは、文書よりもアフター5を重視する傾向があり、システムを構築するのに必要な、企業としての明確な目的と手順を持ち得なかったということだと思いますが、管理は主体と目的が明確でなければ機能しません。

 日本型組織文化は、比較的ゆったりとした時間が流れ、終身雇用と年功序列の幻想が生きていた時代のものでした。それが強味とはならない分野では、もはや現在のビジネスが要求する迅速性、透明性などに対応できないことが明確になっています。しかし、欧米流をそのまま導入しても、結果がうまくいくとは限りません。それに、過渡期を乗り切るには、社員や顧客、株主、取引先などのステークホルダーが納得するビジョンが必要でしょう。自分たちの情報管理システムは、自分たちで設計し、構築・運営し、改善していく以外にないのです。

 この20年間に、情報管理をめぐるオフィスの技術環境は、ほとんど一変しました。専用ワープロでせっせと文書を作成していた時代と比べ、CMSで使える技術は、処理能力でも賢さでも圧倒的に向上しています。しかし、ITはたんに手段を与えるにすぎません。ITを組織や個人の情報ニーズに応えるための環境としてデザインするためには、マネジメントの観点からの目的とビジョンが何よりも重要であることは、かつてと変わりありません。

 次回からは、CMSのための戦略と技術についてお話していきたいと思います。

マネジメントのためのCMS入門(3):CMSの背景につづく

ハイパーテキスト
電子文書システムの一つ。文書の任意の場所に、他の文書の位置情報(ハイパーリンク)を埋めこみ、複数の文書を相互に連結できる仕組み。インターネットのウェブ(World Wide Web)が代表的。

執筆者紹介

鎌田博樹

ITに関するアナリスト、コンサルタント、マーケッターとして25年以上の経験を持つ。「知的生産活動における生産性向上のための技術的環境の構築」をメインテーマに、幅広くITと取り組んできた。

オブジェクトテクノロジー研究所 代表取締役、オブジェクト・マネジメント・グループ(OMG)日本代表


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