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文書管理からCMSへ:マネジメントのためのCMS入門(3):CMSの背景

2005年2月21日 掲載

鎌田博樹
オブジェクトテクノロジー研究所

情報管理のタテとヨコ

 前回のお話で、情報管理が(その最新技術であるCMSを含めて)ひと筋縄ではいかないものであることが、お分かりいただけたと思います。捉えどころのない「情報」を明確に定義して「管理」しようというのですから。つまり、何を情報とし、誰が何のために使うのか、という問いにユーザー自身が答えてからでないと、技術の選択すら始まらないのです。タクシー会社をやるのに、トラックやスポーツカーを揃えて性能比較してもはじまりません。本サイトに掲載されたリサ・ウェルシュマンさんの「CMS選びの5大間違い」は、この勘違いが日本だけの現象ではないことを語っていて、われわれを安心させてくれます。

 とはいっても、欧米の文書管理は、少なくとも定型業務に関連した部分では、厳格に構築・運用されてきており、CMSが対象としているのは、主としてウェブによる、より柔軟でオープンな情報共有・提供を目的としたものです。トップダウン管理体制の一部として存在する従来型の文書管理システムではカバーできない、セールスやマーケティング、IRなどの現場に近いコミュニケーションということがいえるでしょう。

 日本の「ボトムアップ」的システムでは、情報管理が現場に任されており、情報は現場に分散していますから、当然タテの指揮系統が弱くなり、ヨコの情報共有はヒトに依存したものとならざるを得ない。そこを時間外コミュニケーションや人事ローテーションといった非システマチックな慣行で補うわけです。これは社員がカイシャというものをコミュニティと考え、全体の利益を優先して行動する限りは、トップの資質に依存する欧米型よりも有効に機能することがあります。バブル崩壊までは散々これがもてはやされました。そして臨機応変なコミュニケーションという点で、この日本型に優れた点があったからこそ、市場への即応性、品質やサービスといった点で日本製品の優位があったのでしょう。

グループウェアからCMSへ

 90年代前半までの米国の経営とITは、そうした日本の優位を解析し、トップダウンを維持しつつも、ヨコのコミュニケーションをITの力によって実現するということを目標にしていたと思います。LANを背景にした「グループウェア」(注)は、現場主導の情報共有と、ワークフロー(注)管理という上からのコントロールの両立をかなりの程度実現しました。このグループウェアはカイシャ・コミュニティのバーチャル化としてあったわけですから、日本では違和感を持って迎えられたのも無理はありません。

 グループウェアは、文書やメッセージの管理を主要な機能としていました。それではCMSとどう違うのでしょうか。グループウェアもインターネット技術と融合し、ウェブブラウザをクライアントとして様々なファイル形式に対応するようになっていますから、CMSはグループウェアにも統合されていると言ってもよいかもしれません。

 しかしグループウェアがCMS的な機能を持つとしても、CMSのほうは特定の環境に限定されるものではありません。CMSは、ウェブで利用可能な情報資源(コンテンツ)を管理するものですが、カタい組織を前提としたグループウェアに比べると、最近ブームとなりつつあるブログ(Weblog)のように、開かれた環境を主なターゲットにしています。それに、内輪のコミュニケーションではないわけですから、マーケティングとも密接な関係を持たせることができます。さらに情報の枠を広げ、利用者を広げてくると、自分や仲間内の約束事が通用しないわけですから、「知識」として役立つような形で情報を扱い(ナレッジマネジメント)、最適な形で表現する(デザインマネジメント)必要があります。またコンテンツやデザインの運用は、アクセシビリティやユーザビリティといった尺度で客観的に評価されなければなりません。これらはDesign ITで取り上げられる基本テーマということになります。

CMSのキーポイント

 CMSという新語を造ったからには、それなりに目新しさはあるわけですが、重要なことは、CMSが、単独で成り立つものではなく、様々なテクニック、方法論によって中身が与えられ、まともなものになるということです。

ことになりますが、これらをCMSを構築する前提として考え、運用の指針として使っていくのでなければ、成功はあり得ないと言えます。

グループウェア
LANを活用して情報共有・伝達の効率化をはかり、グループによる協調作業を支援するソフトウェアの総称。電子掲示板、電子会議文書共有、電子メールなどを含む。
ワークフロー管理
ビジネスの手続きを自動化するか、手続きの処理手順を規定することで、関係者の間を情報や業務が円滑に流れるようにすること。電子稟議書などを含む。

執筆者紹介

鎌田博樹

ITに関するアナリスト、コンサルタント、マーケッターとして25年以上の経験を持つ。「知的生産活動における生産性向上のための技術的環境の構築」をメインテーマに、幅広くITと取り組んできた。

オブジェクトテクノロジー研究所 代表取締役、オブジェクト・マネジメント・グループ(OMG)日本代表


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