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モバイルというプラットフォームが人の意識や行動を激変させる / ビー・ジェイ・フォッグ

2008年9月 9日 掲載

DESIGN IT! magazine』vol.1の特集「Feature-1」を掲載しています。


B.J.フォッグ

B.J.フォッグ氏はスタンフォード大学のパースエーシブ・テクノロジー研究所で「人を説得するためのテクノロジー」を研究する。

iPhoneの登場は、自身のこれまでの研究を新領域へ飛躍させるほど、大きな影響を及ぼしているという。その新たな研究テーマとは、コミュニケーションのためのモバイル活用の新たなビジョンである「モバイル・パースエージョン」(mobile persuasion)と呼ばれる。

「iPhoneが、私の研究に大きな可能性をもたらしてくれました。そもそもiPhoneは、モバイルというデバイスが単なる電話や電子メールの機能を超え、それ以上のことができることを示してくれました。つまり、人々はiPhoneを使うことで、PCと同じようにアプリケーションやインターネットに接続するといった、仕事の機器として活用できることに加えて、パーソナルなツールとしても仕事を効率化できるようになりました」(フォッグ氏)という。

例えば、個人のメールを受信して、そのままアドレス帳のコンタクトリストに加えると、そのまま会社のPCと同期をとることもできる。パーソナルな部分と仕事が、このモバイルというデバイスの中で、シームレスに(継ぎ目なく)つながっているわけだ。

「いずれ、スタンフォードの私の授業で、様々な実験を試みてみたいと考えています。例えば、授業の最初の日にiPhoneを渡して、それ以降のすべてのコミュニケーションやプロジェクトをiPhoneを通して実践するような講義を想定しています」とフォッグ氏は目を輝かせる。

今、米国ではiPhoneの影響は、どの領域に及んでいるのだろうか。

「まず、電話の市場に大きなインパクトを与えたのは言うまでもありません。現に、モトローラやノキアなどの電話メーカーは、iPhoneの登場をとても恐れていたようです。そもそも電話とiPhoneは、全く異なるものを提供しているにもかかわらずです。そして、ユーザーインタフェース(UI)に関しては、他の電話メーカーもiPhoneのようなスタイルになりつつあります」(同)。

また、iPhoneを開発したアップル自体にも影響があったと、フォッグ氏は見ている。何よりも、アップルという会社をデザインのリーダーとして、また格好良さや流行という意味において、同社への期待が益々高まることにつながっている。アップルにとっては、iPodと電話が一緒になることで、単に2つの機能がひとつになったこと以上の変化があったのだ。それは、エンタテイメントと生産性、さらにコミュニ ケーションのすべてが一体化し、企業が目指すべきゴールを大きく変えたと言えるだろう。


幹部クラスから社員まで徐々にiPhoneが浸透!?

iPhoneは、企業情報システムにどのような変化をもたらすのだろうか。

フォッグ氏は次のように答える。「これまで米国では、アップルの『Macintosh』(以下Mac)は企業内の情報システム用途としては使われていませんでした。ところが、iPhoneがハイテク系の多くの企業で採用され、特に幹部クラスが使うようになったことで変化が起きています」。企業におけるテクノロジー採用の判断にまで、この影響がドミノ式に及び、企業情報システムにMacを採用することへの抵抗がなくなったのだ。その結果、企業ではマイクロソフト製品離れが始まっているという。まさに、iPhoneが企業情報システムの環境を大きく変えている、といっても過言ではない。

さらに、その波は社員レベルにまで及んでいるという。「社員の間では特に、カレンダーやメールシステム、インスタントメッセージといった機能を、MacとiPhoneで一貫したUIによってシームレスに利用できるようになり、自宅と会社という異なった環境が統合できるようになりました。iPhoneを持ち歩くことで、仕事も持ち歩くことができるようになったのです」(同)。

これは、会社に勤める人たちが仕事をしやすくなったと同時に、企業とその他の生活との境界線を低くすることを意味する。

例えば、ある社員が休暇で旅行中に、緊急で仕事の連絡を入れなければならなくなり、携帯しているiPhoneで同僚のスケジュールを確認したとする。そこで、相手も旅行に出ていることが分かった場合は連絡せずに、別の仕事中の同僚を見つけ出して連絡する、といったこともできる。また、複数人(グループ)でメールを交わすことで、自分やメンバーがどこにいるかに関わらず、臨時の会議を招集して開催したり、ダイナミックにメンバーを変えて打合せできる、といった利点もある。

次に、日本ではまだ実感することができないが、電話におけるiPhoneの効用を確認しておこう。

「電話としての機能は、米国でもその他の電話と大きな差はありません。ただし、細かい点で随分使いやすくなった、という印象があります。例えば、スピーカーフォンの機能はかなり向上しています。3人以上と会話をするときのカンファレンスコールはとても使いやすくなっています。また、留守番電話の機能についても、他の電話よりもはるかに進化しています。簡単に聞くことができ、メッセージを削除したり、反応してその場で答えたり、アドレス帳(コンタクトリスト)に入れるなど、一連の作業がとてもやりやすくなっています。まさに、UI によって使いやすさが向上していると言えるでしょう」(フォッグ氏)。


モバイルの将来像をiPhoneが変えた!

米国では若者たちを中心に、iPhoneをカラフルなカバーケースに入れて持ち歩くことがブームだ。携帯電話としてではなく、iPodのように身近なのだろう。

米国では若者たちを中心に、iPhoneをカラフルなカバーケースに入れて持ち歩くことがブームだ。携帯電話としてではなく、iPodのように身近なのだろう。

さらに「iPhoneはモバイルにおける、これからのゴールを激変させた」とフォッグ氏は指摘する。

ユーザーは、モバイルにインストールすれば、PCと同じように新しいアプリケーションの機能を試すことができる。また、開発者側からすれば、ソフトウェアをモバイルへ簡単に導入してもらえるようになったわけだ。つまり、デスクトップ環境の良い面をそのままモバイルで実現し、高性能な「持ち運べて携帯できるPC」の実像を見せたと言えるだろう。

さらにフォッグ氏は続ける。

「モバイルが人々を仕事・友達・エンタテインメントにつなげる存在となり、そのテクノロジーは、人の意識や行動を変えるものになっていくでしょう。私が予測した『モバイルというプラットフォームは、ここ10~15年の間で人の意識や行動を変える最も強力な方法である』ということが、iPhoneによって、さらに想像しやすくなったと言えます。商品販売をはじめ、温暖化への取り組みといったキャンペーンなど、人の行動様式を向上させる様々なことが、すべてモバイルでできるようになる必要があります。iPhoneはそれが本当に実現できるということを証明してくれているのです」

5月末日時点で、日本では発売されていないiPhoneだが、それがどれほどのインパクトを持つのか、興味は尽きない。



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