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ユーザーエクスペリエンスを支える3つの原則

2008年9月 9日 掲載

DESIGN IT! magazine』vol.1の特集「Feature-1」を掲載しています。

コンシューマ市場を変えたiPhoneは企業システムの流れを変えるか?

構成・文:川添 歩 かわぞえあゆむ
ソシオメディア株式会社 シニアコンサルタント。


ブラウザでのインターネットアクセスにおけるiPhoneとWindows CE系のシェアの差は、ほんの少しに見える。

ブラウザでのインターネットアクセスにおけるiPhoneとWindows CE系のシェアの差は、ほんの少しに見える。しかし、出荷台数はWindows CE系の圧勝となっている。つまり、同じ携帯電話であるにもかかわらず、iPhoneユーザーの方が、よりネットを利用しているということがわかる。

iPhoneとiPod touch
本稿を執筆中の2008年5月末日時点で、日本ではiPhoneがまだ発売されていないが、iPod touchが発売されてからは8か月あまりが経過した。

本稿で述べているUIの特長は、電話・公衆回線でのネット接続・カメラの機能に関連するもの以外はiPod touchでもまったく同様である。

「iPhone」が米国市場に登場して1年が経とうとしている。携帯端末としての機能や性能において、他の製品に比べてそれほど魅力があるわけではないが、実際にiPhoneのユーザーインタフェース(UI)を目にし、その操作感を体験すると、評価は180 度変わってしまう。

その結果、多くのことがこの1年間で変化した。

すべての変化を挙げることはできないが、変化のひとつは、iPhoneユーザーが携帯電話の使い方を広げているということだろう。昨年12月の米国の調査会社ネット・アプリケーションズによる報告では、PCを含めたWebへのアクセスにおいて、iPhoneは0.09%というシェアとなっている。そして2008 年4月には、0.15%まで上昇している。この数値は決して大きな値ではないが、同じくブラウザを搭載した携帯端末である「Windows CE(Windows Mobile)」系は、iPhoneの数倍の販売数にも関わらず、シェアは0.06%(2008 年4月も同じ)にすぎない。

これは、iPhoneのユーザーが他の携帯端末ユーザーより長い時間Webへのアクセスに時間を割いていると考えられる。

この結果がiPhoneのどのような要素から得られたものなのか、興味深い。

別の変化は、iPhoneそっくりの様々な携帯端末の登場だ。これは10 年ほど前、iMacが市場に登場した際に、PCに限らず多くの似たようなデザインが街にあふれた現象に似ている。だが、筐体の外観やUIの見た目が似ていれば似ているほど、それに実際に触ったとき、本物との違いが明白になる。この違いは、どこから来るのだろうか。

現在、2008年1月に発表されたビジネス向けの対応をはじめとして、企業情報システムにiPhoneを使用するための動きが静かに広がっている。

本特集ではまずPart.1で、UIと情報アーキテクチャ(IA)の視点から、iPhoneの使いやすさの秘密を読み解く。

Part.2では、実際にiPhoneを活用している日米の先駆者たちに、今後iPhoneがどのように企業システムの中で使われていくのか、教授してもらう。

Part.3では、iPhone を企業情報システムのフロントエンドとして導入する際の開発環境について、最新情報を交えて紹介する。

今後、iPhoneが企業情報システムに入り込んでくる場合、それは単に使いやすさや目新しさから採用されるということではない。現在の企業が抱える情報をきちんと整理して表現できる基本性能を持ち、いくつかの開発環境によって目的にあったソリューションを構築できること。携帯端末に求められるこうしたことを現在最高の形でパッケージにしたものが、iPhoneだと言える。

携帯電話ではなく、小さなコンピュータであるiPhoneの活用方法を、一緒に考えてみたい。


iPhoneが再発明したUIを読み解く

約40 年前にダグラス・エンゲルバートの元で産声を上げたグラフィカルユーザーインタフェー(GUI)。それはウィンドウ、ポインティングデバイス、ハイパーリンクによって知的活動支援のために考えだされた概念だった。

GUIを形にしたものとしてよく知られているのは、73 年にゼロックス・パロアルト研究所(PARC)で開発されたワークステーション「Alto」とその上で動く開発環境「Smalltalk」だろう。このデモを見たスティーブ・ジョブズが感銘を受け、当時開発中だったパーソナルコンピュータ「Lisa」や「Macintosh」にそのGUIのコンセプトを応用したことは有名なエピソードだ。

そしてGUIは「Windows 95」の登場によって広く普及し、その後Mac OSも「Mac OS X」となり、さらに洗練された。現在に至る普及と洗練の要因はハードウエアの向上もあるが「、使いやすさ」に40 年取り組んできた成果でもある。

だが、GUIのコンセプトそのものは、Altoの時からほとんど変わっていない。3つほど挙げるなら、「ポインティングデバイスによってコンピュータの中の仮想的な世界に対して、直接働きかけること」「コンピュータの中の仮想的な世界の情報を効率的に提示すること」「これらの特性を生かして、誰でもが簡単に使えるようにすること」となるだろう。

こうした基本的なコンセプトは、Mac OS Xを出自とするiPhoneのUIでも変わっていないが、その一方でUIの再発明とでも言うべき大きな違いも生まれている。

何が変わり、何が変わっていないのか、一つひとつコンセプトをひも解いていこう。


1. Direct Interface  ポインティングデバイスによってコンピュータの中の仮想的な世界に対して、直接働きかけること

2. Consistent Interface  コンピュータの中の仮想的な世界の情報を効率的に提示すること

3. Simple Interface  これらの特性を生かして、誰でもが簡単に使えるようにすること


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DESIGN IT! magazine』vol.1の特集「Feature-1」を掲載しています。


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